マインドフルな旅行の流行とともに、旅行者は、
目的地に向かって急ぐよりも、目的地に向かう過程を
いかに楽しむかを重要視している。
メンタルヘルスを大事にするという現代の風潮の中、人々は、より時間のかかる移動の方法を、今この瞬間を楽しむチャンスとして歓迎している。目的のための手段にすぎなかった移動そのものを、目的地と同じくらい楽しむのである。さらには、飛行機や自動車による移動が環境に与える悪影響についての意識の高まりによって、列車による移動が世界的に見直されている。
気候温暖化に反対する活動家Greta Thunbergが飛行機による移動を拒否し、ヨーロッパ内の移動には列車しか使わないことは有名だ。「飛び恥」(飛行機に乗ることを恥とする)機運が高まるなか、流行を生み出す人々は世界中で、情緒たっぷりに演出した列車旅行を持ち上げようと懸命である。
スーパーモデルEdie Campbellは、2019年秋のファッションウィークに参加する際、飛行機を使わず、ロンドンからミラノまで12時間かかる列車での移動を選んだ。2019年10月にElleに寄稿した記事の中でCampbellは、ファッション業界のカーボンフットプリントについて言及し、自身の移動経験については「天国だったわ.....快適な座席で優しく揺られながら、キラキラ光る湖や山道の横を走ったり、イタリアのおばあちゃんたちがブルマーを干しているのがちらっと見えたりするの」と書いている。
2019年の10月から11月にかけて、モデルであり活動家であるAdwoa Aboahは、列車による移動の良いところをInstagramで褒めそやした。ベルモンド・ブリティッシュ・プルマンの車上で撮った一連の写真のキャプションには、「大好きなママとお洒落をして列車に乗るのが一番好きになっちゃった」とある。
ファッション業界を代表するファッションブランドChanelは、Resort 2020というコレクションで、列車の旅の贅沢さを強調する。モデルに従来のランウェイを歩かせるのではなく、ボザール様式で再現された駅舎を舞台にしてコレクションを発表したのだ。ショーに続くマーケティングキャンペーンは、現代風の優雅な列車の旅に命を吹き込み「冒険への期待」を抱かせるのだ、とChanelは説明する。
「プライベートジェットを使ったり、高度1万2,000メートルでシャンペンを飲んだりすることが、多忙な勝ち組の贅沢旅行だ、と言われてきたけれど」とCampbellは書いている。そんな贅沢の定義はもう古い、と主張し、「贅沢というのは、時間をかけること、もっとゆっくり移動することなのよ」と宣言するのである。