NPO法人Ubdobe

https://ubdobe.jp/

Jan. 29 2022

医療福祉エンターテインメントのパイオニアが語る”音楽とアートと医療福祉”。医療福祉の課題をエンタメの力で”自分ごと”にする

 

母の死で負った後悔を原動力に

音楽やアートの力を借りて医療福祉にまつわる情報を広く発信する、
NPO法人Ubdobe(ウブドベ)。代表理事を務める岡勇樹さんは、自身も音楽に救われた経験を持つ。

「3歳から11歳までアメリカのサンフランシスコで過ごした僕は、帰国して編入した日本の小中学校にまったくなじむことができなかった。はじめてコミットできたコミュニティが、高校生になって入り浸るようになったクラブやライブハウス。音楽という共通言語のおかげで、社会からドロップアウト寸前だった僕も誰かとつながることができたんです」

岡さんが医療福祉に携わるようになったのは、それから数年後のこと。ディジュリドゥ奏者、DJといった音楽活動に明け暮れるなか、最大の理解者であった母ががんで亡くなってしまう。「遊び呆けている間に母を失いました。2年も闘病していたのに、家に寄り付かなくなった僕はその事実さえも死後に知ったんです。そのときに感じたのは、一生かけてもぬぐいきれない後悔と自責の念です」
医療、福祉、介護、病気、そういったものがもっと身近な存在だったら。家族や友人と、いざというときに備えて気軽に話し合えたら。岡さんが痛感したのは、医療や福祉を身近に感じさせる文化の醸成の必要性だった。もし家族になにかあったとき、少しでも知識があればその後の状況は変わるはずだ。

そんななか、祖父が認知症を発症する。今度こそ家族のために何か行動しよう、そう決意して行き当たったのが音楽療法だった。「これだ!」と思い、仕事をやめて音楽療法を学びながら、高齢者の訪問介護や障がい児の移動支援に携わるようになる。
「医療福祉の業界で感じたのは、発信すべきことが山ほどあるのに誰もそれをしようとしないということ。そもそも人手が足りないし、当事者たちが情報発信の必要性を感じていない。医療や福祉をもっと身近に感じてもらうために、自分たちで発信していこう。そう思いました」

 

 

大失敗と手応えと。「ぜったいに諦めない」10年の軌跡

2008年、初めて福祉と音楽を融合したイベントを企画した。障がい児施設や特別学級に通う子どもたちと小学校に通う子どもたちが同じ空間で楽しめる、音楽とアートのイベントである。「障がいのあるなしに関わらず、同じ年代の子どもたちが一つの空間に共存して、楽しそうに遊んでいる。それが本来の社会の有り様だと思った」と岡さん。「Kodomo Music & Art Festival」と名付けられたこのイベントは、たくさんのアーティストたちに支えられメジャー化していく。2010年には日本で初めて、医療福祉系クラブイベントの「SOCiAL FUNK!」を立ち上げる。認知症や障がい、がんや臓器移植など、現代社会が直面するさまざまな問題をテーマに掲げるこのイベントには、毎回500人を超える若者が集まるようになり、厚生労働省が視察に訪れるほどになった。

とはいえ、成功体験ばかりではない。次の転機となったのも、母の死に次ぐ大きな失意だった。2011年、屋外会場で大規模開催を進めていた「Kodomo Music & Art Festival 2011」が、台風の影響で当日中止となってしまう。
「出演する子どもたちはこの日のライブペインティングのために10ヶ月を費やして準備をしてきた。その心情を思うといたたまれず、『中止』の一言さえ彼らに伝えられないありさまでした」
金銭的にも大損害を被った。UbdobeはNPO法人化したばかりだったが、岡さんの頭には自己破産・法人解散の2文字が浮かぶ。そんな危機的な状況を救ってくれたのが、そのイベントの演出をお願いしていた舞台監督。ギャランティを払えないと頭を下げる岡さんを、「誰もが楽しく暮らせる世の中の実現という目標を、借金くらいで諦めるな」と叱咤激励したのである。

借金を返済するため、全国47都道府県の自治体や社会福祉協議会、医療福祉系の企業を周り、イベントやデザインのプロデュース事業をプレゼンした。泥臭いプレゼン行脚の最中も「ぜったいに諦めない」という強い気持ちを持ち続けた。その甲斐あって、行政からの受託事業が増えていく。いつしか“医療福祉エンターテインメントのパイオニア”としてUbdobeは福祉業界で注目を集める存在となっていった。

 

 

社会のためではなく。自分のため・家族のためのソーシャルビジネス

そうして2017年にスタートしたのが、デジタルアートとリハビリテーションを融合した「デジリハ(=Digital Interactive Rehabilitation System)」プロジェクトだ。きっかけは「AIR JAM 2016」でプロデュースした、デジタルアートを取り入れたキッズゾーン。デジタルアートに触れようと子どもたちが手を伸ばしたり追いかけたりするさまを、筋ジストロフィーの子どもを持つUbdobeのメンバーが目にし、センサーやデジタルアートのリハビリへの転用を思いついたのだ。

画期的であるのは、好きなものやワクワクするものを詰め込んだリハビリ・システムという点だけではない。「デジリハ」アプリの開発にはキッズプログラマーやリハビリを受ける子どもたちなどがさまざまに関わっている。開発の裏側に、キッズ同士の思わぬコラボレーションを内包しているのだ。
「そればかりか、痛恨の『Kodomo Music & Art Festival 2011』に出演してくれたかつての子どもたちが、成長してチームに参加してくれています。僕はいまだにあの経験を克服できていないけれど、『デジリハ』を広めていくことがあの時のリベンジになるのかもしれません」日本が抱える社会課題の解決に向けた「ソーシャルイノベーター」に選出され、日本財団から多額の助成金を受けて開発と社会実装を進めてきた「デジリハ」。大人にとっても楽ではないリハビリにエンターテインメント性を持たせたとして、多方面から期待が寄せられていたこのアプリも、ついに正式ローンチを果たした。

“ソーシャルビジネスの旗手”、“社会起業家”といわれることもあるけれど、「ソーシャルビジネをやっているという意識はまったくない」と岡さんは言う。Ubdobeも「デジリハ」も、個人的な後悔や慚愧の念を少しでも打ち消したくて始めた事業だから、と。
「でもソーシャルビジネスってそういうものだと思うんです。必要なのは、社会を良くしようという壮大な理想よりも、自分の家族や友人、親しい人たちのための思いや行動。それを追い求める中で、いつしかそれがソーシャルビジネスとして育っていくのではないでしょうか」

これから10年、20年と続けるなかで、岡さんが抱える後悔も少しずつポジティブなものに転じていくのかもしれない。

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