大都市は再生資源の宝庫。コルク栓を収集して再資源化するTokyo Cork Projectにインタビュー
都市の資源を掘り起こせ!「TOKYO CORK PROJECT」の挑戦
「TOKYO CORK PROJECT」はコルク栓を収集して再資源化するプロジェクトだ。プロジェクトを率いるのは北村真吾さん。前職は飲食業、1日に何百万円も売り上げるような人気ワインバーに勤めていた。そんな繁盛店で北村さんを悩ませていたのが、フードロスや廃棄物の問題である。例えば抜栓したコルク栓を1ヶ月溜めると、その数は優に1000個を超えていたという。
調べてみると、東京では年間600トンものコルク栓が廃棄されていた。日本ではコルク栓の原料を100%輸入に頼っているのに、それだけのエネルギーとマイレージを費やしているのに、これを全て廃棄物にしていいのだろうか。「TOKYO CORK PROJECT」は北村さんのそんな問いかけからスタートした。
軽く、弾力性、保温性、断熱性、遮音性に優れ、水を弾くのに空気は通すという素晴らしい特性を備えたコルクは、地中海沿岸部のみに生育するコルク樫の樹皮をくり抜いて作られる。製造にあたって原木を伐採する必要もなく、剥いだ樹皮は9年ほどで元の厚さに戻る。皮剥ぎされたコルク樫はCO2の吸収率が3〜5倍も高まるともいわれ、世界屈指のコルク産出国であるボルトガルのコルク樫の森は1400万トンものCO2を吸収している。つまりコルクはエシカルでエコフレンドリーな素材なのだ。
こうして作られたコルクの使い途はといえば、コルク栓のみならず宇宙産業、自動車産業、建築業と幅広い。実際、世界のワイン先進地域ではコルク栓を再生素材として認識している人が多く、リサイクルも浸透している。このようなコルクの特性を広く伝え、リサイクル素材から魅力的なプロダクトを産み出すことができれば、日本でもコルク栓を循環させるシステムを構築することができるはずだ。「大消費都市は再生資源の宝庫なんですよ。捨てればゴミでも活かせば資源。活かし方に着目すれば多彩な再生資源が手に入る」。その理念を体現するのが「TOKYO CORK PROJECT」なのだ。
原動力は「もったいない」。子どもの頃から環境問題に敏感だった
2011年「TOKYO CORK PROJECT」を立ち上げた北村さんは飲食店を1軒ずつ訪ね、コルク栓のリサイクルへの協力を仰いでいた。多くの店舗でポジティブな反応があり大いに励まされた。同時に、回収したコルク栓を蘇らせる素材開発も始めたが、こちらはうまくいかなかった。「パートナー(協力店舗)は順調に増えたのですが、それをリサイクルする工場がみつからず循環が一向に進まない。それなのに回収量だけがいたずらに増え、一時期は15トンものコルク栓を抱えて茫然としていました」
それでも諦めなかったのは、自分の中に「もったいない」という気持ちがあったから。現代社会で当たり前になっている大量生産・大量廃棄のシステムから脱却し、等身大で豊かなライフスタイルを築きたいという強い思いがあったのだ。「振り返ってみると、小学生の時に書いた作文でも『このままだと地球上には動物が住めなくなる。だからリサイクルしよう、エネルギー問題を考えよう』、そんなことを謳っていたんですよ。大人になった自分が考えるのは、いつかの自分のような子どもたちに環境問題を押しつけるのではなく、自分ができる精一杯をやっておきたいということ。それがぼくの原動力なのかもしれません」
長く抱えてきた循環側の問題にもようやく光が射してきた。地道に取り組んできた素材開発において、建材や床材、什器の素材として使える可能性が見えてきたのだ。また、SDGsの流れを受け、企業のノベルティーやOEM、店舗什器の製造を請け負うなどリサイクルコルクの活用の幅も広がってきている。「確かに、循環側の問題解決にはまだまだ越えるべき壁がいくつもあります。でも自分の中に『もったいない』という原動力がある限りは諦めずに続けていけるのかな」
作る側も消費する側も、「自分ごと」にしていこう
2015年に策定されたSDGsの広まりの中で日本でも少しずつ環境意識が高まり、エシカル&サスティナブルなものづくりを志すメーカーやそれを求める消費者が増えてきた。北村さんはいま、それを肌で感じている。けれど、まだまだ足りない。大都市の中でリサイクル、リユースを加速させ、限りある資源の消費を抑えてサーキュラーエコノミーを実現させるためには、それに取り組む事業者を増やすことはもちろん、消費者のマインドセットも必要である。「リサイクルの目的は回収ではなく、再生資源をより多く普及させることで新たな資源のムダ遣いを抑えることにあります。消費者に心がけて欲しいのは、いま手にとっているモノがどうやって生まれてきたのか、そしてどう一生を終えるのか、そこに思いを馳せること。確かにリサイクル素材は割高になりがちですが、代替素材に正当な価値を見出し、そこにウェイトを置いた消費や廃棄を意識してみて欲しい」
そして事業者には、エコだから、サスティナブルだからというストーリーありきのものづくりではなく、完成度で勝負するプロダクトを作ってもらいたいと願っている。「これ、かっこいい」と手にしたプロダクトが、実は再生素材でできていた……そんなストーリーが、北村さんが理想とするサーキュラーエコノミーの姿だ。
オープンイノベーションを採用し、これに関わる事業者がそれぞれのリソースと技術を融合して進めている「TOKYO CORK PROJECT」。オープンに課題を解決していくことで幅広い視点を備えることができるばかりか、グリーンコンシューマーやサーキュラーエコノミーという概念が広がりやすくなる。北村さんはそう考えている。「このプロジェクトの主体はぼくではなく、プロジェクトに関わる全ての事業者です。衰退してしまった国内コルク産業の再興隆、新たな雇用創出……目的はなんでもいい、リサイクルコルクという新しい仕組みのなかでそれぞれが新しいビジネスの形を描く。そうやって、これに関わる全員が主体となって、『自分ごと』に捉えて進めていくことが、アーバンエコロジーをビジネスとして成功させる鍵なんじゃないかな」