株式会社手塚プロダクション

http://atom-community.jp/

Jan. 29 2022

現代社会にフィットする、新しいお金のあり方の考察。「日本で最も成功した地域通貨」「地域コミュニティをリデザイン」「お金で買えないモノ」

 

「アトム通貨」が日本で最も成功した地域通貨になるまで

インターネットの普及やテクノロジーの進化、さらにはコロナ禍という未曾有のできごとにより、働き方、暮らし方、意識や価値観までもが変わりつつある現代社会。もしかしたら今後、価値交換の主役はお金ではなくなるかもしれない、そんな考え方も生まれている。これからの社会におけるお金の価値や役割、そこからもたらされる未来の社会の姿を、「アトム通貨」という地域通貨を事例に考えてみよう。

「アトム通貨」は2004年、「鉄腕アトム」のホームタウンである早稲田・高田馬場エリアで生まれた地域通貨である。2000年代前半、地域コミュニティ活性化のツールとして地域通貨が一躍注目を集めるようになったが、そのなかで最も成功した事例といわれるのが「アトム通貨」だ。「アトム通貨実行委員」としてこれを推し進めた手塚プロダクションの石渡正人さんが、誕生の背景を解説する。

「当時、地元商店街が衰退しつつあり、地域コミュニティ内のつながりも希薄になっていました。『アトム通貨』は地域を活性化する施策として、地元商店街と早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター、手塚プロダクションが協働して始めたものです。手塚プロダクションとしては、漫画『鉄腕アトム』の中で設定されたアトムの誕生時、地元である早稲田・高田馬場の商店街を中心とした地域コミュニティがこれを盛り上げてくれたことに対する恩返しの気持ちがありました。同時に『人と人の繋がりの大切さ』や『子どもたちの未来を守る』という手塚治虫のメッセージを、ホームタウンで継承していきたいという思いもあったのです」

当時、たくさんの地域通貨が生まれていた。しかし、“エコマネー”あるいは“ボランティアマネー”と呼ばれたように、その多くが同じ価値観を共有する団体、もしくは特定の地域内においてのみ流通しており、年間配布額が20万円程度という非常に小規模なコミュニティを作り出すにとどまっていた。地域活性化を目的とするなら、利用シーンを広げて流通量を増やすことが必要である。そこで「アトム通貨」は通貨の配布条件をゆるく設定し、誰でも参加できるプラットフォームを目指したのである。

 

 

「アトム通貨」で地域コミュニティをリデザイン

商店会や自治会、学校など古くから存在したエリア型のコミュニティのつながりの希薄化が叫ばれているが、その一方、特定の目的を持つボランティアグループやNPO、社会人サークルなどテーマ型のコミュニティの活動は活発化している。これまで地域コミュニティが抱える問題の一つとして、エリア型コミュニティとテーマ型コミュニティの距離が遠く、うまく機能していないことが挙げられていた。

「そこで、誰もが参加できるゆるいつながりを目指した『アトム通貨』にその橋渡しを担わせたのです。『アトム通貨』は実店舗での社会活動だけでなくさまざまな団体が主催するプロジェクトやイベントでも配布可能です。商店街というエリア型コミュニティの担い手と、サークルやNPOなどテーマ型コミュニティが手を取り合ったことで枠を超えた交流が生まれ、地域コミュニティの活性化が促されました」(石渡さん)

2004年の通貨導入初日、配布第一号店となる手塚プロダクションの直営店の前には「アトム通貨」を求める長蛇の列ができた。「世間からの関心の高さや手応えを感じた他の店舗も続々と配布するようになりました」というのは、同じく実行委員を務めている手塚プロダクションの日高海さん。「アトム通貨」は、「環境」「地域」「国際」「教育」という4つの理念に沿って行われる社会活動に参加することで得られる「サンクスマネー」、つまり「ありがとう」の気持ちの表れである。全国の支部により理念に基づくテーマも異なっており、「ありがとう」の対象となる社会活動も実に幅広い。たとえばマイバッグやマイ箸の持参、地産食材・メニューの選択、地元商店街周辺の清掃活動、子どもに対してはレストランで出されたメニューを完食した、一人でおつかいができた……。参加店舗が自分たちの店で実施できる社会活動を考えるなかで自らの価値や特徴を再認識することができ、これがモチベーションの向上をもたらした。

このように商店街全体が通貨の配布に熱心に取り組んだ結果、年間2000万円相当(2000万馬力)もの通貨が流通するようになる。

 

 

「アトム通貨」が可視化した、お金で買えないモノ

「アトム通貨」が配布される地域の子どもたちは、通貨を「もらう」ではなく「集める」と表現するという。「“集める”という表現からわかるように、『アトム通貨』を記念品としてコレクションする人が一定数います。これには国家通貨では推し量れない価値があると考えています」(日高さん)
加盟店では1馬力(アトム通貨の単位)1円相当として利用できるが、思い出として手元に残しておいた場合、その対価はお金では買えないパーソナルな思いや物語そのものということになる。

「アトムという正義を体現するキャラクターと通貨に込められた理念、利用者の良いことをしたという満足感や楽しい思い出が相互に機能しあうことで、他の地域通貨にはない独自性が生まれたのでしょう」(石渡さん)だからこそ「アトム通貨」は年ごとに変わるデザインや紙の質感にこだわる。利便性に優れたスタンプや電子マネーに移行しないのも、実際に触ってコレクションできる紙幣であることがこの通貨の独自性を守ることになるからだ。

最大で年間2000万円相当もの通貨が流通するようになったというが、「アトム通貨」の意義は地域コミュニティにもたらされた経済効果ではない。
「2000万円相当というと年間100万回の配布機会があったことを意味します。地域コミュニティにおいて人と人が交流する中で、『ありがとう』という気持ちが100万回生まれたこと。そして誰かの手元に残った通貨の数だけ、幸せな物語があること。ここにこそ価値があるのです」(石渡さん)

社会や経済を取り巻く環境が日々、変化するなかでお金は形骸化している。これまでモノやサービスを得るための最大の手段はお金だったけれど、今後は労働や貢献、時間、信用、あるいは自分と誰かがつながって「ありがとう」という気持ちが生まれる幸せが価値交換の新たな基準になるかもしれない。自分にとって本当に価値を感じるモノ、それを見出すことがお金に縛られない生き方の第一歩になるのではないだろうか。

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